これは私がぐりとぐら幻の3人目だった頃の話です。
医療系学生である私は大学病院で2年間ほど実習をしていたのですが、その日は初めて病理解剖を見学することになっていました。
学生の身ですから、遅刻はならんとかなり前もって解剖室のある病院の地下に向かったのですが、初めて踏み入れる場所なのもあったせいでしょう、全く解剖室に辿り着けませんでした。
地下階は何度曲がっても同じような景色ばかりで、来た道もよくわからなくなってゆき、地下特有の重苦しい空気にだんだんと薄寒さを覚え始めた頃、ある扉の前に出ました。
そこには「霊安室」と書かれていました。
目的の部屋は解剖室ですから霊安室に用は無いですし、若干の恐怖を感じた私はすぐに背を向けて解剖室を探しに来た道を戻りました。
そうして解剖室を探して地下を彷徨っていると、私は見覚えのある扉の前に来ました。
霊安室の扉でした。
すぐさま踵を返し、とにかくここを離れて解剖室への道を人に聞こうと地上に戻る階段を探しに歩き出しました。
そうして私は再びその扉の前に出ました。
霊安室の扉の前に。
怖くなった私は急いで廊下を戻りました。
とにかくここから離れようと思ったのです。
そうして歩いていると、解剖を担当される先生と出会えました。
その先生曰く、解剖室への廊下は扉があって鍵が閉まっており、学生では開けられない為迷ってしまったのだろうということでした。
歩けど歩けど解剖室に辿り着かないわけです。
私は安堵しました。
これは良い笑い話のネタが手に入ったと思った私は先生に言いました。
何度曲がって進んでも霊安室に着くからめちゃくちゃ怖かったんですよ、と。
先生は笑っておらず、こうおっしゃられました。
この地下階はL字構造だから、何度も曲がるなんてこと無いはずだけど、と。
私は一体、どこを彷徨っていたのでしょうか…